大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(う)101号 判決

被告人 本多雪美

〔抄 録〕

(二) 原判決の事実認定と法令の適用について。

所論は、被告人は本件紙小箱二箱を夫の父と夫のために一時預かっただけにすぎず、原判示のように供与を受けたものではないというのである。

そこで、原審記録ならびに証拠物を調査検討し、当審における事実取調の結果をも考え合わせて判断すると、先ず、原審において取調べられた各証拠を総合すれば、(イ)昭和五四年一二月一六日施行の茨城県笠間市議会議員選挙が同月六日告示されたが、中村勉は同日右選挙に立候補の届出をしたこと、(ロ)被告人は頭書の住居に夫の覚、三人の子、舅の義夫、姑のよし江と共に居住しており、右覚は国鉄に勤務し、右義夫は農業に従事していて、被告人は家事、育児、農業の手伝いなどをしていたものであり、被告人、覚、義夫、よし江の四名はいずれも前記選挙の選挙人であったこと、(ハ)被告人は福島県浪江高校を卒業後東京都内の会社に三年ほど勤務し、その間夜間の保育学校を卒業し、昭和四八年三月に覚と結婚し、現住居に住むようになったものであること、(ニ)前記中村は、四年前に行われた前記議員選挙にも立候補し当選したものであるが、その際被告人方を訪問し前記義夫に会っているところから、今回も同様に訪問して当選を図ろうと考え、前記告示の日である一二月六日午後六時半ころ自動車を運転して被告人方に赴き、同家前で車から降り、自分の名刺一枚とデパートの包装紙で包まれている靴下二足の入った小箱一個を手にして被告人方母屋玄関の土間に入り、「今晩は」と声をかけたこと、(ホ)その際被告人方では前記覚、義夫の両名とも外出中であり、よし江は入浴中であったことから、被告人が応対に出たところ、中村は「市会議員の中村です。前回の選挙の時はお父さんにお世話になりました。今回もよろしくお願いします。」と言い、前記の小箱に名刺を添えて差出したこと、(ヘ)被告人は、前記市議会議員選挙のことを新聞などで知っており、右中村の言葉や名刺などからも、同人が右選挙に立候補し当選を図るため来宅したものであり、投票依頼の趣旨で右の小箱を提供するものであることを察知し、選挙に関し物を貰うことは悪いということを感じながら、舅がいないことでもあるので、右名刺と小箱を一応受取ったこと、(ト)右中村は、直ぐ同所を立去ろうとしたが、同じ敷地内の被告人夫婦と子供らの寝泊りに用いられていた離れの部屋がある別棟に電灯がついているのに気づき、「向うにも誰か住んでいるのですか」と被告人に尋ねたところ、「あっちも一諸ですからいいんです」との答えを聞いたため、二世帯になっているものと判断し、「いいえ持って来ますから」と言いながら、前記の車に赴いて前記と同じ靴下二足入りの小箱一個を車内から取り出すと、直ぐまた前示玄関の土間に戻り右小箱に前同様の名刺を添えて「よろしくお願いします」と言いながらこれを被告人に差出したこと、(チ)被告人は、右小箱が前記のような趣旨のものであることを認識しながら、特に断わることもなく一応預かる旨の留保を付することもせずに右名刺と小箱を受取り、右中村が立去ってから先に受け取った名刺および小箱と一緒にして土間の上り縁に置き、家事に従事していたが、やがて姑が入浴を終えて来たので、同人に「今中村という人がこれを持って来た」と告げ、右名刺や小箱を示したこと、(リ)被告人はそのころ、右小箱の形状などからそれがおしぼりタオルか靴下ではないかと感じていたが、これを直ちに返そうというような気を別段起こすこともなく、同夜午後八時ころ舅の義夫が帰宅し、次いで午後一一時ころ夫の覚が帰宅したが、被告人はそのいずれにも中村の来訪のことを告げたり受け取った品物の処置について相談をかけることなどしないまま就寝してしまったこと、(ヌ)右義夫は帰宅後妻のよし江から前記小箱を誰かが置いて行ったとの話を聞いたが、被告人に対しそのことで確かめたり尋ねることはしなかったこと、(ル)翌七日の朝、被告人は前記名刺二枚および小箱二個を前記の土間上り縁から奥の四畳間の仏壇の前にある貰いものなどを載せる小机の上に移し、右品物や中村の来訪のことについて夫にも舅にも話さないまま、午前九時ごろ幼稚園の保育参観に出かけたこと、(ヲ)右のように被告人が外出した後、夫の覚は仏壇の前の名刺や小箱を見つけ、母のよし江から前夜同女が入浴中男の人が置いて行ったものであると聞き、選挙違反になるものと考え、共産党の関係者と相談のうえ、ほか二名の者と共に右中村の名刺一枚と小箱一個を持参して午前一〇時半ころ所轄の笠間警察署に赴き、右名刺と小箱を任意提出し、選挙違反の取締りを要請したこと、(ワ)被告人は、同日正午ころ幼稚園から帰宅した際、姑から「覚がこんな物貰ったら大変だといって名刺一枚と品物一箱を警察に持って行った」と聞き、これはまずいことをした、夫に報告しておけば良かったと思ったこと、(カ)同日午後四時ころ笠間警察署の警察官である小野寺正美および大浦隆夫の両名が被告人方に赴き、前記名刺や小箱を受け取ったのは被告人であることを知るに及び、被告人から事情を聴取して供述調書を作成すると共に、仏壇の前に残っていた名刺と小箱の任意提出をうけたこと、以上のような諸事実を明らかに認めることができる。

ところで、公職選挙法二二一条一項四号、一号に定める金品等の受供与罪が成立するためには、その供与を受ける者において、当該金品等が特定選挙における特定候補者のための投票あるいは選挙運動に関する報酬であることの認識の下に、これを自己または家族などに帰属させる意思で受領すれば足りるものと解するのを相当とするところ、前記(イ)ないし(カ)のとおり認定した事実関係に基づいて判断すれば、被告人は、中村から、初めに小箱一個を受け取ったときはともかく、二個目を受領した時点においては、右小箱二個につき包括的に、舅夫婦や被告人夫婦を含めた被告人方家族に帰属させる意思でこれを受領したものと認めるべきであり、右小箱が原判示選挙における中村への投票依頼の趣旨でその報酬として提供されるものであることを被告人が認識していたことも明らかであるから、被告人の所為が前記の受供与罪に該当することは当然といわなければならない。被告人の捜査官に対する供述のうち叙上の認定に添う部分は措信できるものであり、これに反し被告人の原審ならびに当審各公判廷における供述のうち本件小箱を単に一時的に預かっただけであるかのように述べている部分は、他の関係各証拠に照らし措信することができない。なお、前記覚の警察署への出頭や小箱一個だけの任意提出は、前記のとおり、被告人とは相談することなく無関係になされたものであり、被告人を代理してなされた行為であるとも認められないことなどからして、前記被告人の受供与罪の成立を認めるについて妨げとなるものではない。

以上によれば、原判決がその挙示する各証拠によって原判示の事実を認定したのは相当であり、被告人の所為につき公職選挙法の定める受供与罪の条項を適用した点も相当であるから、原判決には所論のような事実誤認も法令適用の誤りもなく、論旨は理由がない。

(市川 簔原 千葉)

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